「あっ・・・あのっ…相沢、、先輩っ。」

「ん?」



谷村愛未は、部活帰りで友達と談笑する相沢拓弥を呼び止めた。



「少し・・・いい、ですか?」

「うん。何?」



拓弥は友達に先行ってて。と頼むと、愛未に寄って行く。

茶化す友達に困ったように笑いかけて、タオルで汗を拭く。



「先輩、すいません。突然呼び止めちゃって・・」

「ううん。えっと・・2年の谷村さんだよね」

「知ってますか?あたしのこと…」

「うん。よく話に出るよ」

「話?」

「あ、何にもない。それで何?あいつら多分待ってくれてるだろうから、早く。」



急かす拓弥を見て、愛未は空気の塊を飲み込む。

そしてふーっとゆっくり吐き出すと、拓弥の顔をまっすぐに見据えて口を開く。



「あ、あ、あたし・・」

「うん。」

「相沢先輩のことが、大好きなんです。付き合って・・いただけませんか?」



愛未が言い終わった瞬間、風が吹いた。

時間が止まってしまいそうな位ゆっくりと吹いた風が、愛未の長い栗色の髪を撫ぜる。

愛未は、自信があった。

拓弥が今、頷いてくれると言う、ポジティブな自信が。



「―――ごめんな」

「えっ・・」



拓弥の言葉を聞いて、愛未の中の自信が崩れ去る。

事実を飲み込みたくなかった。フラれてしまったと言う、哀しい事実を。



「なんでっ・・」

「きっと俺なんかよりもずっといい彼氏が出来るから。」



優しく微笑みかけた拓弥を見て、愛未は泣きそうになった。

涙を拭って、愛未はもう一度言葉を紡ぐ。



「相沢先輩じゃないとダメなんです。あたしは先輩の事が好きです。」

「ごめん。俺は好きじゃないから。」



顔は微笑んでいたが、拓弥の言葉はひどく冷たかった。

そして愛未を残して、夕暮れの道を歩いて行く。



「相沢先輩っ!!!」



叫んでも、拓弥が振り返ることはなかった。

愛未は、完全にフラれてしまった。

愛未にとって拓弥は初恋だった。けれど、いとも簡単にフラれてしまった。





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