「瑞紀聞いてよー愛未フラれたんだってー。」

「ホントに?遂に告ったんだー。」

「ちょっ・・優羽、言わない約束じゃん」

「そうだっけ?でもいいじゃんかー。瑞紀に言う位」

「そーそ。あたしは言い触らしたりしないからさ。安心してよ!」

「うん・・」



翌朝、愛未は善山瑞紀と大木優羽に、昨日の事でからかわられていた。

顔は笑っているものも、心の底では悲しみを通り越し怒りが溜まっていた。



「愛未なら男くらいいっぱいできるって。先月告白されたじゃん」

「先月の話だし。今月になってからはまだされてない」

「でも大丈夫だって!愛未ならきっと・・相沢先輩なんかよりもいい彼氏できるって!」

「・・・」



フォローしようと瑞紀が言った瞬間、愛未の表情が暗くなる。

何言ってんのよ。と優羽が小声で瑞紀を煽る。



「ごめん…」

「ううん。平気。」



そして3人の中に気まずい、淀んだ空気が流れた。



「…優羽、瑞紀」

「何?」

「どうしたの?」



口を開いた愛未に、瑞紀と優羽はどこか安堵に似た返事をした。



「あたし、ゆるさない」

「へっ…?」

「あたしの、プライド、きずつけた」



感情のまるで篭っていない声。

二言喋ると愛未は黙り込んだ。


どうすればいいんだろう。

優羽は、瑞紀に視線で訴えかける。

知らないよ。あたしにはわからない。

瑞紀は、おどおどした視線で返事をする。



「あっ・・」



そのとき、愛未は小さく声をあげた。



「どうしたの?」

「相沢先輩・・・」



愛未がまっすぐ指を差した

その指の方向には、拓弥が居た。



「・・・・・・・・・・えっ・・」



一瞬晴れた愛未の顔が、曇る。

拓弥の横に、愛未たちと同じ制服を着た女子が、抱きついたのだ。



「嫌・・っ最悪・・。」



愛未はその場にへたり込むと、両手で顔を抑えて嗚咽を漏らした。

優羽と瑞紀は愛未を心配しつつ、拓弥の横に居る女を凝視した。



「優羽、あれ・・」

「うん。同じクラスの、本条麻美だ」



小声で話したつもりだったが、2人の会話は愛未にも聞えていた。

涙でマスカラが取れてしまっている。けれど愛未は気にせず顔を上げた。



「本条って・・瑞紀と同じ中学だった、あの本条?」

「うん…でも、相沢先輩、確か彼女居なかったよね・・」

「本条と付き合ってるんじゃない?」

「ありえない…!優羽、あたしがアイツに負けたって言うの?」

「いいや!そういうワケじゃないけど・・」

「優羽そんなつもりないって。愛未落ち着いて?」

「うん・・でも・・・・仲良さ気だったし・・」



完全にパニックに陥った愛未を、優羽と瑞紀で必死に宥める。



「きっと告ってたんだよ。本条って先輩と仲いいから、その繋がりで仲いいとか。」

「愛未落ち着いてよ。多分優羽の言うとおりだって。ね?」

「うん・・・・」



愛未の目からは、未だに涙が溢れていた。

愛未の中で、段々哀しみが怒りへと変わっていた。



「…学校着いたらさ」

「うん」

「アイツに・・聞く。何してたのって・・」



しゃくりあげながら、愛未はそれだけ言うと優羽と瑞紀の手を借りて立ち上がった。

カバンを軽くはたくと、その中から鏡とマスカラを取り出し、丁寧に塗り始めた。






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