学校へ着いたあと、愛未は自分の席に突っ伏していた。

瑞紀と優羽は、本条麻美に真実を聞くか否か迷っていた。



「瑞紀、聞かなくていいのかな。本条に・・」

「わかんない・・・」

「瑞紀聞いてよ。親友だったんでしょ?」

「そんなの中学の時の話だし。第一、今全然喋んないから麻美があたしどう思ってるかわかんないし・・」



予鈴が鳴り、瑞紀と優羽は席に着いた。

担任・山村が前で何か話をしていたが、2人は聞かずにずっと愛未を心配した。



   *



「今日、先生休みだから、教室で自習しててって・・」



体育に備え更衣室で着替えている時だった。

遅れて入ってきた麻美が皆に向ってそう、言う。

談笑に満たされていた更衣室の空気がとまった。



「山村先生が、今日体育の早河先生休みだから教室で自習してって・・」



泣きそうな顔で麻美はもう一度言った。

誰も動こうとしない。



「あの・・今日、自習で・・・」

「仕切ってんじゃねーよっ!」



愛未がジャージを麻美に投げた。

ジャージは見事麻美の顔面にぶつかったあと、ぱさっと床に落ちた。



「シャキってんじゃねーよ。マジウザイ」

「えっ…でもあたし、体育委員だし・・」

「体育委員ならシャキっていいワケ?オドオドしやがって。それもウザイんですけど」



愛未は麻美にキレていた。

愛未の右手が麻美の胸倉に伸びる。



「何でオメーなんだよ!死ねよ!絶対許さないからな!」

「…っ!やっ・・やめてっ・・!痛っ・・」



麻美が喚いても、胸倉を締める手を愛未が緩めることはなかった。

止めないと。

そう思った瑞紀は、一歩前へ出た。



「・・ねぇ麻美」



歩み出た瑞紀に、麻美は涙の溜まった目を向けた。

瑞紀が何をしようかわかった愛未は、不意に麻美を締める手を離した。

支えを失った麻美の華奢な身体が、床に叩き付けられる。



「瑞紀・・」

「麻美。今朝、何してたの?」

「何って…」

「相沢先輩と。何やってたか、教えて欲しいんだ」

「あたしら見たの。アンタと、相沢先輩歩いてるの。」



黙ってみていた優羽も、麻美に詰め寄る。



「告ってたんでしょ?好きなんでしょ?相沢先輩のこと」

「・・・」

「何か言ったらどうなのよ」



愛未は麻美を見下し、冷たい言葉を投げ掛けた。



「どうせフラれるだろうに。そういうのをシャキってる、調子乗ってるって言うのよ」



愛未が言っても、麻美も、他の誰も口を開こうとしない。

周りは静まり返っていた。

この中にもきっと、拓弥のことが好きで、でも愛未が居る手前、皆告白などできないのだった。

拓弥への好意がバレれば、脅される。告白なんかすれば、今の麻美のような目に遭う。

それが怖くて皆、自分の気持ちを打ち明けられないままにいた。



「あたし・・・」



――― 〜〜♪〜♪〜♪♪〜〜



麻美が何か言おうとしたとき、麻美のポケットからこもった音が聴こえた。

麻美の携帯だった。誰かから、電話がかかってきたのだ。






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