「瑞紀遅いー!」

「ごめん!先生に説明してたら時間かかっちゃって。」

「もしかして・・・バラしたの?」

「安心して?あたしは愛未、裏切らないから。クラスメイト、としか言ってないよ。」



瑞紀は自分の席まで歩いて行くと、机の上に乱雑に置かれたプリントを整理する。

そして重ねて半分に折ると、机の中に放り込んだ。



「バレんじゃない?」

「大丈夫だと思う。麻美に聞いたことにしてあるし、いざとなったら―――」



瑞紀はペットボトルを取り出し、中のコーヒーをぐっと飲んだ。



「みんなでフォローすればいい。焦らなければ言い訳くらいいくらでもあるよ?」

「…ありがと」



瑞紀は如何して自分がこう言ったのか、わからない。

わからないが瑞紀は、愛未も麻美も、裏切りたくなかった。



――― 焦らなければ言い訳くらいいくらでもあるよ?



瑞紀は自分自身にそう言い聞かせていた。

どちらも傷つけないようにするのは大変だった。



   *



“2年C組、善山さん。善山瑞紀さん。すぐに職員室まで来て下さい。”



放課後。部活に向かおうとした瑞紀に校内放送が聞えた。



「瑞紀…」

「優羽、先行ってて。」

「でもすぐ終わる?なんか色々聞かれるんじゃない?」

「・・・じゃあ休む。優香子先輩に言っといて!」

「わかった。面倒だろうけど頑張って。」

「うん。ありがと。」



瑞紀は優羽に手を振り、元来た道を戻って行く。

急いで階段を昇る。



「失礼しまーす」



職員室の前の長いすにカバンを下ろしてから

瑞紀は、職員室へ入った。



「善山さんごめんなさいね。バドミントン、今日練習あったわよね。」

「はい。でもいいんです。」

「そう…それで、本条さんのことでお話を聞きたいんだけど」



山村は声を顰めて言う。

瑞紀は山村の前の椅子に腰掛けてから口を開いた。



「あたし何も知りません。」

「・・・。善山さんは、2年C組の子とケンカした、って言ったわよね。」

「はい」

「それ以上、本条さんから聞かなかったかしら?」

「聞かなかったって言うか、聞けなかった。」

「・・・そうよね」



山村は溜息混じりに言う。

キィ、と山村の座る椅子が鳴った。



「ならいいわ。今から時間、いいかしら?」

「えっ・・・何でですか?」

「本条さんのお見舞い行って欲しくて。」



山村は真剣に言う。

瑞紀はあはは、と困ったように笑う。



「ダメかしら。善山さん以外に頼れる人が居ないの。あの子、友達居ないらしいから。」



山村は顔の前で両手を合わせて頼む。



――― あたし、きっと友達できないもん。



麻美はいつか言っていた。本当に友達はできなかった。

そして瑞紀は自分を責める。

どうして仲良くしてあげなかったんだろう――――――――



「先生、行きます。」

「本当?ありがとう。助かるわ。」

「でも先生」

「何?」

「何で…あたしなんですか?今はずっと愛未と仲よしなのにさ」



山村はくるりと椅子を回転させ、瑞紀の方を向いた。



「ぼんやりと呟いているそうなの」

「えっ…?」

「瑞紀、ごめんね、ありがとう、って。ずっと」

「・・・」

「あなたに助けてもらったのが嬉しかったみたいよ。」

「…」



瑞紀は職員室を走って出た。






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