「携帯?」



愛未は、いかにもつまらなそうに言った。

その軽快な音楽は、鳴り止まない。



「電話・・かかってきた・・・。出ても、いい?」

「貸して」



愛未は麻美のポケットに手を伸ばした。

麻美は盗られてたまるか。と言わんばかりに、必死に抵抗する。



「何で抵抗すんのよ!」

「だって・・だって・・・」

「隠す必要ないじゃん!優羽、手伝って!」

「えっ…」

「早く!」



叫ぶ愛未は酷い形相だった。

それに怯え、仕方なく優羽は麻美を抑えることに加担した。



「いやっ!」

「よこせよ!」



2人がかりで、麻美を押さえ付ける。

未だ鳴り響くメロディ。


そして麻美の隙を突いて、優羽が携帯を奪い取った。



「返して・・・!」

「優羽、早く出て」

「うん!」



優羽が通話ボタンを押す。軽快なメロディが突然ぶつっと途切れた。

叫びながらもがく麻美を、愛未が押さえ付ける。

周りは誰も声を上げず、動かず、その光景を眺めている。



「もしもし?アンタ誰?」



満面の笑みで携帯に出たはずの優羽の表情が、少しずつ曇って行く。



「えっと・・あ・・本条さんは今・・トイレで…あたし?あたしは本条さんの・・」



優羽のぎこちない喋り方に愛未はイライラしていた。

麻美なんかに電話をよこすヤツなのに、如何して対応に困るのか。

愛未は遂に麻美をその場に突き飛ばし、優羽から携帯を奪った。



「優羽いい加減にしなよ」

「あっ、愛未・・待って―――」



愛未は、麻美の携帯を耳にあてた――――――――



『変わった?麻美、相沢だけど。まだ大丈夫?』

「せ・・・んぱい?」



愛未は放心状態に陥った。

麻美の携帯から拓弥の声がしたことに、愛未は驚いた。

そして軽いパニックになった。



『誰・・?麻美じゃないのか?』



不思議そうな声を出す拓弥。

その声を聞いて愛未は、乱暴に通話を切断した。



「谷村…さん?」

「あ?」



麻美は心配そうに、愛未に問い掛ける。

とうの愛未は携帯を閉じると、冷たく麻美に言った。



「携帯・・」

「あぁ、コレ?」



薄ら笑いを顔に貼り付けて、愛未は

麻美の携帯をもう一度開くと、今度は逆に折り曲げた。



「!」



その場に、バキっと言う虚しい音が響いた。



「はい、返すよ。ごめんね。強引に取り上げて。」



愛未は、麻美の足元に携帯だった、鉄の塊を投げた。

かしゃ、と音を立てながら、麻美の元へと滑って行く。



「あ・・」

「“あ”じゃねーよ!」



我に返った愛未は、麻美の胸倉を掴むとゆっくりぐい、と引っ張った。



「何でオメーの携帯に相沢先輩から電話があるのよ!」

「・・・」

「答えたらどうなんだよ!」

「あたし…」

「付き合ってんのか!?そうなのか?ハッキリしろよ!」



愛未は、麻美を思い切り揺さぶる。

がくがくと麻美の頭が揺れている。



「―――!」



愛未が揺さぶる手を緩めた、刹那。



「麻美っ・・」



瑞紀は思わず声を漏らした。

辺りが紅に染まる。


愛未は、麻美を窓ガラスにむかって突き飛ばしたのだった。


ガラスは粉々に砕け、辺りに破片を撒き散らした。

周りに居た女子も思わず悲鳴を上げるが、愛未に睨まれると声を抑えた。

頭は切り裂け、だらだらと血が流れている。項垂れる麻美を、愛未は見下していた。


その時優羽は見てしまった。

愛未の瞳を。暗く沈んだ哀しい瞳を。

果てし無く暗い瞳を。





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